トランペットのハイトーンを出すうえで、避けて通れないのが「アンブシュア(embouchure)」の問題です。ハイトーンが出ない、安定しない、すぐバテる──その原因の多くは、実はこの「口の形」にあります。
今回は、私自身が長年試行錯誤してきた経験をもとに、ハイトーンに適したアンブシュアの作り方とその考え方を丁寧に解説します。
アンブシュアとは何か?
アンブシュアとは、「口の形」と訳されることが多いですが、正確には「唇、あご、頬、口輪筋、マウスピースの位置、そして息のコントロールを含めた総合的な構え」のことを指します。
単に「唇をどう当てるか」ではなく、「振動させるための仕組み」を作る動作だと考えた方が分かりやすいかもしれません。つまり、音の源を作る出発点がアンブシュアなのです。
ハイトーン用アンブシュアの基本
1. 上唇を主役にする
多くの初心者がやってしまうのが「下唇に頼りすぎるアンブシュア」です。低音ではそれでも鳴ってしまいますが、ハイトーンでは上唇が振動の主役になります。マウスピースの位置は、上唇6:下唇4くらいのバランスが推奨されます。
実際に鏡の前で吹いて、自分の唇がどちらを多く使っているか確認するのがおすすめです。上唇をしっかり振動させるには、唇を横に広げすぎず、縦方向に適度な張りを持たせることがポイントです。
2. 力を入れるのではなく、支える
「唇を締める」という表現で誤解されやすいのが、単純に力を入れて硬くしてしまうこと。実際には、力を「入れる」よりも「支える」意識が必要です。
具体的には、口角を少し引き上げて、口輪筋(口の周りの筋肉)で内側から唇を包むようにします。口をすぼめるような形ではなく、「唇を張って、でも柔軟に保つ」ことがハイトーンに必要なバランスです。
NGなアンブシュアの例
- 力みすぎて顔が硬直する
- 口を横に引きすぎて、唇が薄くなる
- マウスピースを唇に押し付けすぎる
- 吹くたびに口の形が変わる
これらはすべて、ハイトーンを不安定にする要因になります。特にマウスピースを強く押し当てるのは、唇の寿命を縮めるだけでなく、音色も悪くなるので避けたいところです。
実践:リップスラーでアンブシュアを育てる
正しいアンブシュアを身につけるには、リップスラーが非常に有効です。スラーで音をつなげながら、口の形を極力変えずに音程だけを変える練習です。
例:
- G → C → E → G(中音域から上へ)
- C → E → G → High C(中高音域)
最初は小さな音で構いません。唇を最小限に動かしながら、どうやったら音が跳ね上がるかを体で覚えていきましょう。
鏡とスマホでセルフチェック
私が強くおすすめしたいのは、鏡の前で吹く、そしてスマホで録画して自分のアンブシュアを見ることです。演奏中は自分の顔を客観的に見ることができませんが、動画で見ると口の歪みや無意識のクセがはっきり分かります。
また、調子が良かった日の映像を残しておけば、「調子が悪い日」に何が違うのかを比較でき、非常に参考になります。
最後に:アンブシュアは“変化しながら育つもの”
アンブシュアは一度作って終わりではありません。筋肉が育つごとに、振動のポイントや力のバランスが少しずつ変わっていきます。
だからこそ、常に観察し、少しずつ修正を加える姿勢が大切です。そして何より、焦らず・無理せず・毎日短時間でも継続することが、ハイトーンへの近道になります。
ハイトーンを目指すすべてのトランペット奏者へ──「あなたの口は、必ず変わります」。今日から少しずつ育てていきましょう。